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笹幸恵
2023.6.27 16:39日々の出来事

百田尚樹の結党宣言を読んで。

『WiLL』8月号に、百田尚樹の
「自民党、許すまじ! 百田新党 結党宣言」
という記事が載っていた。

先日、有本香が憤っていた内容と全く同じ。

・LGBT法案けしからん
・皇位継承が混乱し、正統性が揺らぐ
・推進派議員は安倍を裏切った、けしからん


有本のネット記事より長文で、
怒りを縷々綴っているのに、
その怒りの根拠はきわめて曖昧。


たとえばこちら。

LGBT法案の成立により、日本社会は
“終わりの始まり”を迎えました。(中略)
日本国憲法が天下の悪法であることは周知の事実だが)
LGBT法は、そんな憲法すら霞んでしまうほど
ロクでもない法律です。(中略)
法律が施行された瞬間から日本社会が崩壊していき、
平穏な暮らしは奪われてしまいます。


終わりの始まり?
憲法よりロクでもない?
日本社会が崩壊???

で、どんなふうに日本社会が崩壊するのかというと、
例によって女子トイレや女湯に侵入する話。

・施設側が「自称女性」を排除できるかどうか疑わしい。

・慰謝料を請求されるかもしれない。

・裁判で施設側が敗訴するケースが出たら、
犯罪者が大手を振って歩くことができる。


勝手な想像に仮定も加わって妄想と化しているが、
もともと「公衆浴場における衛生等管理要領」で
男女別とすることは定められているし、
それが身体的な特徴をもって判断されることは
合理的区別であるとされている。
厚労省も6月23日付けで、男女の取扱いについて
上記のとおりであることを各都道府県等にあらためて通知している。
つまり施設側は『自称女性』を排除できる。
これはLGBT法が成立しても何ら変わらない。


しかも百田はこれをもって公衆浴場の利用が減る、
温泉文化は消滅の道をたどる、などと書いているが、
いったい何の話だ?
妄想が暴走しているとしか言いようがない。


さらにこれが蟻の一穴となって、ダムが決壊するかのように
日本はモラルが崩壊するらしい。
うーむ。妄想が暴走して爆走しているよ。
有本以外に、これを真に受ける人がいるのだろうか。


そして皇統の話へ。
こちらは(も?)筋立てがあまりに雑だ。


・トランス女性、トランス男性はどうなるのか。混乱が生じる。

・男系男子という皇位継承のルールが曖昧になれば、
正統性にも揺らぎが生じる。

・皇統の断絶は日本が日本でなくなることを意味する。


混乱が生じるなどと騒ぐのはLGBT差別者だけだろう。
憲法では世襲と定めているのだから、それに則ればいい。
なぜ男系男子の継承を定めた皇室典範が絶対不可侵と
なっているのか、全くのナゾだ。正統性は揺らがないし、
皇統の断絶云々は、論理の飛躍が過ぎる。
男系男子に限定しているほうが皇統は断絶する。


そして最後は「安倍元総理への裏切り」をした議員への怒り。

彼らは安倍元総理にさんざんお世話になっていました。
にもかかわらず、安倍元総理が絶対に阻止しようとした
LGBT法案を強引に推し進めたのです。
はらわたが煮えくり返る思いです。
恩を忘れる人間に政治は任せられない。


フランスの憲法院長ロベール・バダンデールの
「忘恩の義務」という言葉を思い出す。
世話になったら何があっても忖度し続けるのが政治家なのか?
違うだろう。
一体いつまで仲良しごっこを続けるのか。
もういい大人だろうに。


百田は自民党を口汚く罵り、怒りを露わにし、
「男が廃る」と考えて新党結成計画があると書く。
本人的には、義憤にかられているのだろう。


『愛子天皇論』に収録されていた章の一節、
サミュエル・ジョンソンのこの言葉も思い出す。


「愛国心はならず者の最後の逃げ場である」
笹幸恵

昭和49年、神奈川県生まれ。ジャーナリスト。大妻女子大学短期大学部卒業後、出版社の編集記者を経て、平成13年にフリーとなる。国内外の戦争遺跡巡りや、戦場となった地への慰霊巡拝などを続け、大東亜戦争をテーマにした記事や書籍を発表。現在は、戦友会である「全国ソロモン会」常任理事を務める。戦争経験者の講演会を中心とする近現代史研究会(PandA会)主宰。大妻女子大学非常勤講師。國學院大學大学院文学研究科博士前期課程修了(歴史学修士)。著書に『女ひとり玉砕の島を行く』(文藝春秋)、『「白紙召集」で散る-軍属たちのガダルカナル戦記』(新潮社)、『「日本男児」という生き方』(草思社)、『沖縄戦 二十四歳の大隊長』(学研パブリッシング)など。

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